院長の健康お役立ちコラム

~手掌多汗症~

みなさま、まだまだ残暑厳しい日が続きますが、いかがお過ごしですか?

日中に少し外を歩くだけで、汗が滴り落ちてきます。けれども、汗は暑いとき以外でもかくことがあります。

今回は「汗」の中でも精神的な緊張があった時に発汗する「手掌多汗症」について、お話させていただこうと思います。

多汗症とは?

多汗症には全身性多汗症と体の一部に汗が増える局所多汗症があります。全身性多汗症の中でも原因のない原発性のものと感染・内分泌代謝異常や精神疾患に合併するものがあります。また局所多汗症も原因のわからない原発性と外傷や腫瘍などの神経障害による局所性多汗症があります。原発性局所多汗症では手のひら、足の裏、頭部などに「左右対称性に過剰発汗する」病気です。

このうち、手のひらが日常生活に障害をもたらすほど発汗する場合を手掌多汗症といいます。また手のひらに過剰発汗する方の大半は足の裏でも同様の症状が表れるため掌蹠多汗症とも呼ばれています。発症年齢の平均は、手のひらはおおよそ14歳、足の裏はおおよそ16歳と報告されています。

汗が出る場所、汗腺とは?

汗を出す器官である汗腺には「エクリン腺」と「アポクリン腺」の2種類があり、それぞれに汗の性質が異なります。エクリン腺は全身に分布し、温熱刺激や精神的緊張によって発汗します。一方アポクリン腺は脇の下、乳首、下腹部、耳など限られた場所に分布します。思春期になると性ホルモンの影響で分布が多くなります。またアポクリン腺は手のひら・足の裏に分布しておらず、多汗症はエクリン腺由来の発汗になります。

治療方法は?

多汗症に対する治療には主に塩化アルミニウム外用薬、イオントフォレーシス治療、ボツリヌス菌毒素注射などがあります。最初の治療法としておこないやすいのは塩化アルミニ外用薬を就寝前、患部に直接塗る方法で、皮膚にある汗管という汗を分泌している場所に作用します。効果が出るまで2~3週間ほどかかりますので継続して外用することが大切です。また発汗症状が落ち着いてきたら外用回数を1週間に2~3回に減らしても構いませんが、中止すると再発するおそれがあります。中には塗った部分に皮膚炎を起こしてしまう方もいらっしゃいますが、使用頻度を減らしたり、ステロイド外用剤を使用することで症状が緩和されます。手足の汗の量が多い人は塩化アルミニウム溶液外用後にサランラップやプラスチック手袋などで覆い密封療法を行うとより効果的です。

イオントフォレーシス治療とは、水道水の入った容器の中に浸し、10~20mAの直流電流を流す方法です。1回20~30分の通電を8~12回行うと汗の量が減ってきます。

ボツリヌス菌毒素注射はボツリヌス菌が産生する神経毒素で交感神経から発汗の指令を出すアセチルコリンを抑制します。手のひらに2cm間隔で局所注射すると1週間程で汗の量が減少し、約6ヶ月間効果が持続します。

またその他にも日本で初めて「原発性手掌多汗症」に対して保険適応が認められた外用薬であるアポハイドローション20%は毎日就寝前に両方の手のひらに塗布することで吸収され、有効成分であるオキシブチニン塩酸塩が、エクリン汗腺のムスカリン受容体に結合することで、アセチルコリンによる指令を遮断し、発汗を抑制します。

多汗症という疾患の特性上、誰にも相談できない、人に知られるのが恥ずかしいといった考えで医療機関を受診することをためらってしまう方も多いかと思います。しかし多汗症は適切な治療をおこなうことによって大部分の方の症状が改善する疾患なので、まずはお近くの医療機関でご相談下さい。

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